大怪鳥現わる!

エイチ・ピーオー
テーマB:「ふじ」
編集済み
「うへぇ。折角の寝正月なのに、何でこんなに風が強いんだか」
「ぶっし」
「ぶっし、じゃないよ。降りなさい」

 1月2日。
 うっかり備蓄していたおやつを切らしてしまい、コンビニを目指して歩く成年男性「スミヨシ」は、頭部でふんぞり返る彼のポケモン「ナマコブシ」を両手で抱えた。

「おはぎ。お前どうした? いつもは出不精の癖に」
「ぶしっ」
「大人しくモンスターボールに入ってろよ」

 スミヨシは「おはぎ」ことナマコブシをモンスターボールに入れようとするが、ナマコブシは口から白い物体を放出する。
 人の拳を模したそれは、ナマコブシの内臓器官であり……彼の内臓は、スミヨシの眼前でファックサインを示した。

「お前、それ人前で絶対にやるなよ」

 内臓でピースサインを示すナマコブシ動画に触発され、自身のナマコブシに仕込んだ内臓芸であるが、どうして自分のナマコブシはこんなに品のない形状を示すのか。
 根負けしたスミヨシはモンスターボールを腰にしまい、ナマコブシに下品な内臓をひっこめさせた。
 
「風でふっ飛ばされても知らないからな」
「ぶっし」
「落ち着くどころか、ますます強くなってきているし……」

 雨は降っていないが、とにかく風が強い。
 その強さたるや、前方から車や自動販売機が飛来してくるほどである。

「は?」

 スミヨシは異常な光景に目を見開いた。
 前方から、車や自動販売機が飛んでくる?

「え、俺死ぬの?」
「ぶっ」

 そんなものに当たれば、少なくとも大怪我は間違いない。
 スミヨシは迫る大惨事に呆然とするのみであったが……


「行けっ、シーン!」

 
 スミヨシの全身が押しつぶされることは無かった。
 彼の前に、突如幽玄な盾が現れ、迫る危険物を弾き飛ばしたのだ。

「けぇ」
「ぬ、ヌケニン……?」

 スミヨシの盾となり、彼を救ったのは抜け殻ポケモンの「ヌケニン」であった。
 だが、スミヨシの手持ちポケモンはナマコブシ一匹であり、ヌケニンなど所持していない。

「大丈夫ですか」

 二十代後半であろう女性が、スミヨシとヌケニンの傍に走り寄った。
 どうやら彼女が、ヌケニンのトレーナーであるらしい。

「あ、貴方は?」
「私は国際警察の907。ここは危険です。速やかに退避してください」
「国際警察? それに、退避って」
「災害がやって来ます!」

 「907」と名乗る女性は、空を睨みつける。
 スミヨシも空を見上げると……これは果たして現実なのか。

「ピィーイィィィッ!」

 一体、何百メートルあるのだろうか。
 空には「超巨大なムクホーク」が飛んでいたのだ!

「はぁ?」
「ぶしぃ?」
「奴は凶暴です。逃げてください!」

 907が叫ぶと同時に、超巨大ムクホークは地上へとエアカッターを放った。
 超巨大ムクホークが放つ、超巨大エアカッターは、家々や道路を切り裂き、スミヨシ達へと迫ってくる。

「シーン! 守る!」
「けぇっ」
「ヌケニンのバリアは強力です。さぁお兄さん、今のうちに!」

 907のヌケニンがバリアを展開し、ナマコブシを抱えるスミヨシは、言われるがままに背を向けて全力ダッシュをした。

「か、怪獣映画かよ!」
「ぶっし!」
「え? 「私が戦う」って? 馬鹿言え、お前バトル糞弱いだろ! 第一、あんな巨大なムクホークにどうやって」

 家が吹き飛び、瓦礫が舞飛び、風で足がもつれる中、スミヨシは只管走る。
 だが、彼の前方に落下した存在に、スミヨシは足を止めざるを得なかった。

「うぅう……」
「国際警察さん!?」

 攻撃を食い止めていたヌケニンと、907だった。
 ムクホークの攻撃に耐え切れず、吹き飛ばされてしまったのか。ヌケニンは既に瀕死状態であり、907も血を流していた。

「……不甲斐ないですが……私はここまでのようです」
「そんな、しっかりしてください」
「あの超巨大ムクホークに勝てるのは……「ふじのポケモン」だけ」
「ふじのポケモン?」
「これは私の任務だったのですが……お願いします、お兄さん。ど、どうか私の代わりに……!」

 907は震える手で、スミヨシに紫色の物体を手渡す。

「…………」

 つるんとした、紫色の野菜。
 どう見ても茄子だった。

「茄子」
「こ、これを……ふじのポケモンに与えてください」
「茄子ですよね」
「……何事も、成せばナスのですよ……あ、はは……!」

 つまらないジョークを最後に、907はその目を閉じた。
 
「あ、あのっ。国際警察さん」
「…………」
「ふじのポケモンって、一体何なんです!?」

 スミヨシは907に呼びかけるが、気絶している907はその呼び掛けに反応しない。
 その一方で、超巨大ムクホークの攻撃は続いていく。

「どうすりゃいいんだ。この人放っておくわけにはいかないし」

 街がエアカッターで刻まれていく中、茄子を握りしめ立ち往生するスミヨシだったが、907の腰のボールが起動し、彼女のポケモンであろう五体のポケモンが出現した。

『彼女は我々が守ります。ですから、行ってください。「ふじのポケモン」の下へ』

 その中の一体であるエスパーポケモンの仕業か。
 スミヨシの脳に、直接メッセージが伝わった。

『さぁ、早く。世界は貴方にかかっています!』

 コンビニにおやつを買いに来たと言うのに、あっという間の超展開である。
 だが現実として、スミヨシの目の前で倒れる女性は、彼の盾となったために傷を負ったのだ。

「わかった、わかったよ!」

 そんな人から託されてしまったとなれば、嫌でも行かざるを得ない……
 ムクホークの攻撃は続き、907のポケモン達が時間稼ぎをする中、スミヨシはその場から走り去った。

「おはぎぃ。何か偉いことになっちゃったぞ」
「ぶっし」

 国際警察907から託された、茄子。
 そしてあの超巨大ムクホークを倒す鍵であるという、ふじのポケモン。

 だが、スミヨシには見当がつかなかった。
 一体、ふじのポケモンとは何者なのだろうか?


*****


 世界を荒らしに荒らす、超巨大ムクホーク。
 その正体は軍事用に遺伝子改造されたポケモンであると、ニュースでは連日報道されている。
 軍隊や、トッププロのポケモン達をもってしても、そのムクホークの巨大さに成す術が無い。
 日が経つほどに被害は拡大するばかりであるが、スミヨシは未だに「ふじのポケモン」に辿りつくことが出来ずにいた。

 大体、ふじとは何なのだろうか。
 「藤」色のポケモンとして、ゴーストタイプ愛好家である友人のポケモンに茄子を齧らせたが、外れだった。
 「不死」、即ち長生きするポケモンとして、カメールやキュウコンを探し当てたが、これも違った。

「そうだ、ジョウトに行こう」
「ぶっし」
「知っているか、おはぎ。ジョウトのシロガネ山って、富士(ふじ)山とも呼ばれているんだぞ」

 もしかすれば、ふじのポケモンとは、シロガネ山に生息するポケモンのことを指しているのかもしれない。
 違ったとしても、ジョウトには長寿どころではない「不老不死のポケモン」の伝承が残されている。世界の危機ともなれば、凡人であるスミヨシの前にも現れてくれるかもしれない……
 そんな考えを胸に、スミヨシはナマコブシ、そして齧られ腐りかけた茄子と共に、シロガネ山へと赴いた。

「いい加減茄子も傷んできているし。これで駄目なら本当に駄目って感じだな」
「ぶしぃ」
「頼むよ「ふじのポケモン」とやら。俺達に力を貸してくれぇ」
 
 シロガネ山を登りながら、スミヨシとナマコブシはふじのポケモンを探し求める。
 だが、超巨大ムクホークを恐れているのか。それとも、あちこち齧られ、腐りかけた茄子が嫌なのか。
 スミヨシ達の前に現れるポケモン達は、誰も協力などしてくれなかった。

「大体、何でこんな軽装でシロガネ山を登山しているんだろ俺」
「ぶっし」
「……雪降ってるし。あのムクホークにやられる前に、野垂れ死ぬかもなぁ」 
「ぶ」
「なぁおはぎ。アローラと違ってここは寒いんだから、いい加減ボールに戻れよ」 

 スミヨシはナマコブシをボールに戻そうとするが、彼はべしっと内臓器官でボールを弾いた。

「ぶっし」
「せめて、お前は死なせたくないんだけどなぁ」
 
 体力不足に高山病。そして凍傷に悩まされながら、遂にシロガネ山の山頂へと辿りついたスミヨシであったが、残念なことに、協力してくれるポケモンは結局見つからず……

「うわあ」

 シロガネ山から見下ろす地上は、超巨大ムクホークの攻撃によってズタズタに切り裂かれていた。

「国一番の山から見下ろす、世界の終わり」
「ぶしっ」
「あまり気分の良い眺めじゃないなぁ」

 風が強くなる。
 スミヨシが見上げると、超巨大ムクホークがシロガネ山へと向かってくる姿が見えた。

「……あぁ。おはぎ……ごめんなぁこんなトレーナーで」

 スミヨシが覚悟した、その時だった。


「ショオオォ」


 これぞメイクドラマ。
 虹色に輝く鳥ポケモンが、シロガネ山に現れたのだ!


「あれは……伝説のポケモン、ホウオウ!?」


 ジョウトに伝わる不老不死のポケモン、ホウオウ。
 「ふじのポケモン」とは彼に違いない、とスミヨシは茄子を振ってホウオウを呼ぶが、ホウオウは腐りかけの茄子には見向きもしない。

「そりゃそうだ」

 だが、ホウオウは迫る超巨大ムクホークを敵対者と認め、ムクホークへ豪炎を放った。

「やっちゃってくださいよ、ホウオウさん!」
「ぶっしぃ!」

 伝説のポケモンならば、あの大怪鳥を倒してくれる。
 そう信じ、腕と内臓器官を振り上げホウオウを応援するスミヨシ達だったが、悲しいかな。
 伝説のポケモンといえども、サイズの暴力には適わなかった。 
 ホウオウは、超巨大ムクホークが放った超巨大エアカッターによって、豪炎ごと撃ち落とされてしまったのである。

「あ、あれっ」
「ぶしっ」
 
 連射されるムクホークのエアカッターは、シロガネ山を切り裂き、崩していく。
 シロガネ山は崩壊し、同時に、スミヨシの身体は暴風に煽られ、宙に浮いた。
  
「おはぎ!」

 スミヨシは、ナマコブシを抱きかかえて空を舞う。
 死が迫るが、こうなってしまっては、もはやどうしようもない。

「ピィーイイイイイイッ!」

 これは、遺伝子操作によって生み出された兵器の怒りなのだろうか。
 超巨大ムクホークの鼓膜を破らんばかりの鳴き声が、ジョウト全体に響き渡る。
 だが、そんな中。

「ぶっし!」

 スミヨシの腕の中のナマコブシが身体を捻り、スミヨシが握っていた茄子に喰らいついた。

「お、おい、おはぎ? お前、そんなの喰ったら腹壊すぞ!?」

 後は叩きつけられて死ぬだけだと言うのに、スミヨシはナマコブシの腹の心配をしている。
 そんな彼を余所に、ナマコブシは腐りかけた茄子を残さず飲み込んだ。

「ぶ、ぶしぃ」
「ほら見ろ、腹痛だ!」

 ナマコブシの呻き声にそんなもの食べるから、とスミヨシが呆れるが、次の瞬間ナマコブシの身体は膨れ上がった。

「な、ななっ!?」

 これが、907から託された茄子の真の力なのか。
 両手で抱えきれなくなったナマコブシの身体は膨張を続けていく。
 スミヨシの身長よりも。
 インド象よりも。
 彼らが暮らす、賃貸アパートよりも。
 
「ぶっしぃいいいいいいいいいいいいいっ!」

 天に轟く、ナマコブシ。
 膨張がようやくおさまったその時、ナマコブシの身体は、今は亡きシロガネ山並みのサイズとなってしまっていた。

「おはぎ、お前……」
「ぶっし」
「戦う気なのか、アイツと!」
「ぶしぃっ!」 

 超巨大ナマコブシは内臓器官を吐きだし、超巨大ムクホークへと得意のファックサインを示す。  
 柔らかい超巨大ナマコブシの山頂にて、落下死を免れたスミヨシは、相棒の決意をその全身で感じ取った。

 ―おはぎは世界を賭けた戦いに挑もうとしているんだ。
 ―伝説のポケモンも敵わなかった怪物に、勝とうとしているんだ。

「こうなりゃ……やけくそだ!」

 ―ポケモンがその気なのに。
 ―トレーナーである俺が、逃げられるかよっ!

「行くぞ、おはぎぃ!」
「ぶっし!」

 超巨大ムクホークは、超巨大ナマコブシを対等な敵であると判断したのか、翼を折り畳みナマコブシへと突撃をする。
 飛行タイプの大技、ブレイブバードである!

 当然、ナマコブシ山が避けられる攻撃では無く、ムクホークの全身がナマコブシの身体に突き刺さったが、

「カウンターだぁああっ!」
「ぶじいいいいいっ!」

 大地を抉りながらも耐えたナマコブシは、ムクホークの巨体へと内臓で出来た鉄拳を叩きこんだ。
 世界の未来と、愛するトレーナーを背負った「富士(ふじ)のポケモン」の一撃の前には、生体兵器の怒りも及びはしない。
 大怪鳥ムクホークは絶叫しながら地に墜ち、その生涯で初めての敗北を喫したのであった。

「やったなぁ、おはぎ!」
「ぶっ!」

 ナマコブシ山に朝日が昇る。 
 見事に世界を救ったスミヨシは、愛する相棒の大勝利に興奮し、拳を振り上げた。

「でもさ、おはぎ」
「ぶっし?」

 だが一方で、彼は突っ込まざるを得なかった。

「お前、「ふじ」のポケモンって言うより、「ぶっし」のポケモンだよな」

 そして、全ては閉じる。 
 設定したままであった、目覚まし時計の音と共に……



*****



「……夢オチて」
「ぶっし……?」

 1月2日。
 壮大な初夢から目を覚ましたスミヨシは、鏡餅の上で寝ぼけているナマコブシを眺めた。

「何だろ。警察特番を観ながら寝落ちしたから、こんな夢見たんだろうか……」
「ぶじぃ?」
「まぁいいや。大体、ナマコブシ山なんて、食費を考えただけでも恐ろしいぜ」

 スミヨシは鏡餅からナマコブシを手に取り、つんつんとその身体をつつく。
 ナマコブシは朝から己を弄るスミヨシに対し、内臓器官でファックサインを示した。
 
「一富士……いや、一ぶっし、二鷹、三茄子ってか……?」
「ぶっ?」

 スミヨシが窓を開けると、冷たく、穏やかな冬の朝が広がっていた。
 そこには大怪鳥も、国際警察の姿も居ない。

「めでたいのかはわからんが、今年もよろしくなぁ、おはぎ」

 今日は職場も休み。
 安堵した成人男性スミヨシは、相棒であるナマコブシと、賃貸アパートにて暫しの寝正月に励むのであった。