XとY~いでんしポケモン最後の希望~

岩の妖精メレシー
テーマB:「ふじ」
 ドクトル・フジ。
 いでんしポケモン・ミュウツーを作り出したといわれる人物。
 彼はかつて、ポケモンの遺伝子研究の第一人者として活躍していた。
 しかし、愛娘の死をきっかけに、その人生は一転する。
 彼は頻繁に闇の組織との接触を図るようになり、数か月後、彼は忽然と表舞台から姿を消した。
 その後の消息は不明。
 ミュウツーに関する事も、長らく『噂』の領域を出るものではなかった。
 だが近年、彼と関わりがあったとされる人物の遺品から、彼とミュウツーとの関わりを証明する文書が発見された。
 以下に、その一部を抜粋する。

     * * *

 私は、ミュウツーが怖い。
 ミュウツーは確かに、ミュウの遺伝子から生まれた最強のポケモンかもしれない。
 だが、ミュウツーとて生き物だ。何かの拍子に人間に牙を剥く可能性はある。
 何より、その力は未知数。
 万が一の事が遭った時、我々の力で、どこまで対応できるか。
 フジ博士は、その事を全く考えていない。
 ならば自分達で何とかするしかないのだが、私には自信がなかった。
 だが、かすかな希望が1つだけあった。
 博士の愛娘のコピー、アイツーだ。
 ミュウツーは、アイツーとテレパシーのような力で、コミュニケーションを取ったのだ。
 それも、頻繁に。
 どのようなコミュニケーションなのかはわからないが、反発したならそもそもコミュニケーションなど取らないはず。
 私は、アイツーならミュウツーの暴走を止められるのではないかと思った。
 1人と1匹の間に、確かな絆が芽生えているならば。
 故に、ある研究を独自に始める事にした。

 遠く離れた地方には、ポケモンと人の絆を力に変える石がある。
 トレーナーとポケモンが、それぞれ異なる石を持ち、共鳴させれば、互いの絆が『進化を超える力』となってポケモンに宿る。
 ただそれは、使えるポケモンが決まっており、そして希少だった。
 そのサンプルを手に入れ、ミュウツーのための石を人工的に合成する。
 それが、私の研究だ。
 ただ、リスクもあった。
 1つは、この石を合成できた実績が過去に一度もない事。
 そしてもう1つは、ポケモンに暴走しかねない力を与えてしまう事。
 まさに諸刃の剣であったが、フジ博士はこの計画にゴーサインを出してくれた。
 スポンサーであるロケット団も、この研究に興味を持ち、さまざまな独自の技術を提供してくれた。
 彼らもアイツーとミュウツーの関係に興味を持っていたようで、ミュウツーを操るトレーナーになれるかもしれないと思っていたようだ。
 相変わらず、彼らはミュウツーの兵器利用しか考えていないらしい。
 それはともかく、彼らが提供した技術のおかげで、不可能と思えた石の合成は成功した。
 最初に完成したのは、トレーナーが使う石。
 すぐさまアイツーをお借りして、既存の天然物を使った共鳴実験を行った。
 実験は成功だった。
 2つの石は確かに共鳴し、『進化を超えた力』のエネルギーを発したのだ。
 行ける。
 私はそう確信した。
 これで、ミュウツーを暴走させずに済む。
 そして、何より。
 アイツーとミュウツー。
 1人と1匹の間の絆の証を作れる事を、私は純粋に嬉しく感じたのだ。

 だが、肝心のミュウツー側の石の完成は遅れてしまった。
 理由は、ロケット団がミュウツーの可能性を探るという名目で、石を2つ作る事を要求したのだ。
 片方は、ミュウツーの身体能力を強化する石。
 もう片方は、ミュウツーが元から持つ力を極限まで高める石。
 私は前者をX、後者をYというコードネームで呼んだ。
 系統が全く異なる石を合成する事は容易ではなく、計画は大幅に遅れる事になった。

 2つの石がようやく完成した時、私は不幸な知らせを聞いた。
 アイツーが、寿命を迎え消滅したというのだ。
 彼女もまた、コピーの命という宿命に抗う事はできなかったのだ。
 彼女が消えた時、ミュウツーは大きく動揺し、急遽投薬で眠らせなければならなかったという。
 計画は暗礁に乗り上げてしまった。
 完成した石の共鳴を試みる実験は行ったものの、誰も石を共鳴させる事はできなかった。
 石そのものの出来は、天然物と全く変わらないのに。
 私は懸命に解決策を練ったが、ロケット団は計画を失敗と判断し、別のプラン――ミュウツーの拘束具となる鎧の開発に着手した。
 そうしている間にも、ミュウツーはコピーの命の宿命に抗い、独り成長を続けていった。




 そして。
 私が恐れていた事は、とうとう現実のものになってしまった――




 あの圧倒的な力は、今でも記憶から消えない。
 今でも、寝ている間にミュウツーが襲ってくるのではないかと思うほどだ。
 もはや、誰もミュウツーを止める事はできない。
 ミュウツーは、ポケモンで最も凶暴な心を持ってしまった。
 それが、たった1人の友人を失った反動なのかはわからない。
 とにかく、他の人間を拒絶したミュウツーは、これからも破壊を繰り返していくだろう。
 そんなミュウツーの心を鎮められる人間は、果たしているのだろうか?
 いや、いる。
 いるはずだ。
 私はそう信じる。
 負け惜しみかもしれないが、私はそう信じる。
 コピー人間であるアイツーにできたのだ。普通の人間にできないはずはない。
 だから、私はせめてもの責務として、3つの石を残す事にする。
 これは、最後の希望。
 いつか、ミュウツーと心を通わせる事ができる人間が、現れた時のための――

     * * *

※補足
 ここに記された3つの石については、現在も行方がわかっていない。
 そもそも、実在するかどうかも不明である。