そこにわたしはいるから

揚げどうふ
テーマB:「ふじ」
編集済み
 ある時、とある青年がポニ島のポニの花園にいた。
 ふじの花が咲き乱れるこの花園。彼は大切な[誰か]と会うためこの田舎の花園にやって来た。
 



 時は10数年前。


 一人の子供とその家族がメレメレ島からポニ島に引っ越して来た。
 しかし、その子供にはメレメレ島に友達が沢山いた。

 別れの日、彼は学校で大泣きしたそうな。
 沢山の友達との別れはまだ小さな彼にはかなりの悲しみをもたらしただろう。

 ポニ島には殆ど子供がいない。
 また、少しだけいる子供も方言が強くて馴染めず友達になれなかった。

 とある土曜日、学校が休みの日に彼は独りでポニの花園で泣いていた。
 早くメレメレ島に帰りたい、と。


 その時だった。

「なんで泣いているの?」


 今まで見たこともないポケモンが彼に話しかけてきた。
 色は上に咲いているふじのような色。
 気品をたたえた風貌。
 しかしどことなく優しさも感じられる。

 まさに[神]のようなポケモンだった。


「私が話し相手になってあげるから。泣かないで。」

「ほんとに?」

「ええ。私もひとりぼっちだし。」


 その子は思いきって訪ねてみる。

「ポニ島の方言わかる?」

「意外に簡単よ。あなたたちのおじいさんのような感じの喋り方に似てるかなぁ...
あと少し昔の言葉が入ってたりするの。だから初めて聞いた人は理解しにくいんだろうねぇ...」

「ありがとう!」

「いいのよ、役に立てたなら。」

 そのポケモンは答える。

「ねぇ、僕と遊ぼう!」

「いいわよ!そこの池で向こうまで競争よ!」

「うん!」






 しかしいくら楽しくても遠慮なく日はおちていく。

「また会える?」

 彼はぐずつきながら聞く。

「ええ。ここに来たらいつでも遊んであげる。あとこの島の子供ともしっかり遊ぶといいわ。いい子ばかりだもの。きっと仲良くなれる。」

 そのポケモンはにっこり笑って答えてくれる。

「ありがとう!またね!」

「いつでもおいでね!また今度!」

 そして彼らは別れた。
 その一日の楽しかった思い出を振り返りながら。


 次の日、彼はまたあのポケモンに会いにポニの花園に来た。

「あっまた来てくれたのね!」

 すぐに彼女は飛び出してきてくれた。

「うん。だって今日学校休みだもの。」

「ならよかった。今日何して遊ぶ?」

「今日はいっぱい遊び道具を家から持ってきたよ!」

 リュックに詰めてきた遊び道具をリュックから一気に出す。

「凄い!ありがとう!」

 満面の笑みで答えてくれた。





 それから彼らはよく一緒に遊んだ。
 そして彼女もその度彼にポニ島の方言をしっかり教えてあげた。
 そのおかげで彼はポニ島の子たちと仲良くなることができた。






 しかし、別れというものは必ずいつか訪れるものだ。

 彼はまたメレメレ島に帰らなくてはならなくなったのだ。
 また彼はポニの花園で泣いていた。
 この島に来たときと同じように。


「どうしたの...?なにか悲しいことがあったの?」

 彼女は心配そうに聞く。

「僕...明日ポニ島を引っ越してメレメレ島に帰らなくてはならないんだ...」

 泣きながら彼は答える。

「大丈夫よ。いつかまた会える。大人になったらいつでもおいで。私はずっとずっと待っているから。きっと...!」

 彼女も目に涙を浮かべていた。

「私、見送りに行くから...!本当はついて行きたいけど私はメレメレ島には行かれないの...。」

「うん...わかった。明日の9時ちょうどだから...!宜しくね!」



 別れの日。


 港の物陰に彼女はいた。

「なんでそんなところにいるの?」

「私はあんまり人前に出たくないの。だからここで見送らせてもらうわ。ごめんね。」

 その時彼女の頬を涙が伝う。
「これをあげる。船の中で開けて。いつか...私に会いに来て!絶対!」

 彼女は小さな箱を手渡す。

「僕もいつか絶対行くから...!またね...」

「ええ。元気に...してね!」

 彼は溢れる涙をぐっとこらえながら走って船に向かう。




 船の中で彼は小さな箱を開ける。
 そこにはガラス玉のようなものと手紙が入っていた。

 いや、ガラス玉ではなかった。
 物凄く綺麗な水を固めたものだった。
 水の玉の中にはポニの花園のふじの花が入っていた。
 彼は手紙を読む。




 私手紙なんて書くの初めてでどんなこと書けばいいのかわからない...でもまず言わせて。ありがとう。
 実は私、君が来てくれるまで数百年ひとりぼっちだったの。悲しくて何回も泣いた。最後に私といてくれた人が死んでしまってからずっと私のことは忘れられていたの。

 君には言ってなかった。いや、言えなかった。
 私は...ポニ島の守り神と言われているカプ·レヒレなの。だから最後君とお別れする時も人前に出られなかった。カプ·コケコが治めるメレメレ島にも行かれなかった。ごめんね。

 最後に言わせて。

 私はずっと君のことを待っているから。
 私は君に会えて本当に嬉しかった。

 またいつか会おうね。

              カプ·レヒレ


 彼は驚いていた。
 まさか自分と遊んでくれたポケモンが守り神だなんて。
 小さき彼にはなかなか理解できなかった。


 しかし船は無情にもどんどんポニ島から離れていく。


「カプ·レヒレェーッ!」

 彼はどんどん小さくなるポニ島に向かって叫んだ...



















 時を今に戻そう。

 今ポニの花園に立っているこの青年こそ[あの]子供である。

 彼の手にはあのふじ入りの綺麗な水球が優しく握られていた。
 あのポケモン、カプ·レヒレに会いに来たのだ。


「誰?私の花園に入ってく...ああっ!」

 目をこすりながら昔と変わらぬ彼女が出てきた。
 突然の彼の訪問に驚いた様子だったが。

「久しぶり。約束通り来たよ。」


「あっ...ありがとう!!大きくなったね!」

「あれから10数年たっているからねぇ...元気そうで何よりだよ」


「うん...うん...嬉しいよ私。」

 彼女は涙を流していた。
 しかしあの別れの日の涙とは意味の違う涙だ。


「僕も。会えてとっても嬉しい...!」


 彼らは抱き合って一緒に泣いた。
 そして互いに再会を喜びあった。


「そうだ、僕は今日からこの島で仕事するんだ、ポニ島の自然保護員。」

「じゃあもう...?」

「一生この島で暮らすよ」


「やったぁ!」

 喜ぶカプ·レヒレ。
 側には彼女の様子を見てクスッと笑う新ポニ島自然保護員がいた。


「だーい好きっ!!」

「あ、危ない!」

 カプ·レヒレがいきなり抱きつき、慌てるが可愛いとも思うその青年だった...




「永遠に一緒にいようね!」

とカプ·レヒレ。

「あったりまえじゃん!」

と彼は答える。



 その二人の上に、壮大な、そして永遠のふじの花が咲き乱れる...