『みちづれ』

水タイプ組 レスキュー隊長
テーマA:「ラジオ」「上昇気流」「反比例」

私は、この世界においてどんな役割を与えられているのだろう。

ふと、そんな疑問が浮かんできた。

何故か頭はいつもよりもずっと冴えている。まるで、自分にある余計な情報を全て整理したかのようだった。

自分はいつの間にか『ギアチェンジ』でもしたのだろうか?

答えは、否。

その技は特定の種族しか使用することの出来ない、一種のアイデンティティのようなものだ。

いや、技をコピーして自分のモノにするドーブル族や全ての種族の祖先と言われているミュウならばそれにあてはまらないのでは?

結局、自分はどちらでもないため考察したところでなんの意味も無いのだが。

そもそも、『ギアチェンジ』は使用者の攻撃力と移動速度を高める技なので、頭の回転とは関係もへったくれもなかった。



閑話休題、としておこう。

自分でも思わず引いてしまうくらいに回転速度が高まっている私の脳は、現在自身の置かれている状況を多くの情報を持って理解しようとしている最中だった。




自分は、上に広がっている大空をプカプカと浮かんでいた。

そこには理由なんてものはなく、ただただ風の行くままに身を任せていた。

1人で各地をぶらり旅するということは、好きな時に自分の好きなことが出来る。

他人に合わせて忙しく動くこともなく、思う存分辺りの景色を眺めることも出来る。

誰にも文句を言われずに、自分の思うままに進むことができるということは、私にとってまさに理想の環境といえた。

別に空は逃げることなど出来ないのだから落ち着いてゆっくり進めばいいものを、他は『まるで見えない何かが見えているのではないか』と、疑ってしまうほどの猛スピードで四方八方に飛び交っているのだ。

急いだところで何かが起きるわけでもない。

それだったら、ゆっくりと進む分ゆとりを持っていた方が得するのではないか。


それが、自分の理論だった。

しかし、一人旅は良いことばかりではなかった。

自分の種族は、人間には『フワライド』と呼ばれている。

人間の乗る気球のように膨らんだ紫色の体が特徴的で、人間から見て実はストライクゾーンに入っているのではないかと個人的に思っている。

だが、ほとんどの人間は私の種族を恐れている。

その理由は、私の属性にあった。

『フワライド』は飛行タイプ、そしてゴーストタイプを兼ね備えている。

タイプを聞いた時点で分かるとは思うが、私は現世と霊界を行き来することが出来る。

それだけだったらまだ不吉だと思われるだけで済む。

大きな風船と勘違いした人間の子供が、『フワライド』族を掴んで離さなかった。

掴まれている同族が、風に煽られて上空に浮き上がると、しばらくしないうちにその子供が消えていたことがあった。

私達は理由もなく浮かんでいると、掴んだ人間を『道連れ』にしてしまっていた。
その話が人間の間で広まった結果、私達の姿を見ると、大体がその場から立ち去ってしまう。

そんな事もあり、突然の突風に巻き込まれ木の枝によって体が引き裂かれた私に近づくものは誰もいなかった。


ただ、1人を除いては。









「………目が覚めたかい?」

その呼びかけに、私の意識が覚醒した。

声がした方を向いてみると、一人の男が軟膏を持って私の顔を覗いていた。

いつの間にか裂けていた体も元通りに縫われている。近くのテーブルには裁縫道具が置かれている。
この事から、その男は私を助けてくれた、命の恩人と言うことになるが、何故私を助けたのかが気になる。

しかし、人間とポケモンでは言葉による意思疎通は極めて困難だ。それ位はすぐに分かる。エスパータイプや伝説と謳われるポケモンでも無ければテレパシーは使えない。

それでも、やはり理由が気になる私はジェスチャーでも使おうか、そう考えていたところで驚かされた。


「そんな必要はないよ」

男が言葉を紡ぐ。しかし、その内容はまるで今私が考えていた事に答えるかのようなものだった。

……………流石に無いな、偶然だろう。



「偶然ではないからなぁ………」



前言撤回。この男テレパシーが使えるらしい。そうでないなら他に納得のいく理論があるのだろうか。いや、ない。

「昔から、声が聞こえるんだよ。ポケモン達の声がね………。君のも例外じゃない」



理由は分からないらしい。まあ、一般とはかけ離れた特徴を持っている者の中でその理由を知っているのはほんの一握りだというのはお約束とも言える。

言葉が通じるのが分かった為、先程から聞きたかった理由について尋ねてみる。

『何故、私を助けたんだ? 私の種族の事を知らない訳では無いだろう? 』

そう聞いてみると、予想していなかった答えが帰ってきた。

「いや、名前は特に知らないな。散歩していたらたまたま見つけたから助けたってだけだしね。」

そう言って、彼は優しく笑いかけた。



………………知らなかったのか。

知らないなら助けようとも思うだろう。

この際だから、こちらの紹介をしておこうと思う。

『私はフワライド。数多の魂から生み出されたポケモンだ』

「へぇ、フワライドか………。僕の名前は________」








自己紹介を終えた後は、私に森の中を案内すると言って家を飛び出した。彼の家は枝で骨組みを作り、周りを藁等で固めている実に質素なものだった。

彼いわく、住み心地はとても良いそうだ。

私が驚いたのは、その家が彼自身が建てたものだということだった。



私を助けた彼は、その特異体質の為、多くの者から蔑まれていて、5年前から私の墜落した森の隅に住まいを建てて暮らしているそうだ。


その森では、私が驚かされた点が幾つかある。


まず、一つ目は人間は社会というコミュニティを生成しその中で生活を成り立たせている。物々交換を行い、地域ごとに発展させ、より良い生活を目指す。一般的なポケモンは、木の実等を集める者も居れば弱肉強食という言葉が似合う生活をしている者まで様々だ。

ここまで言ったのは、その森が、一つの町としても機能していたことだった。



森の中では、多くのポケモンが露店よろしく木の実や住まい用の葉っぱや美しい石が売られている。支払う時には同じく別の木の実等で済ませている。

その中にはバーテンダーとして店を構えているポケモンもいる。

そこはポケモンだけでなく、一部の人間たちも時々通うほど腕も良く一番の評判店となっているそうな。


「マスター、居ますか?」


そんな所に誘われて入ってみると、中は狭すぎず広すぎずで丁度良いバランスだった。
屋根の間から木漏れ日がさしてきているのでこれまた薄暗い状態を保っている。


どんな生き物も、このような絶妙なスペースにいると思わずリラックス出来るものだ。

これには、店が評判になるのも納得がいった。

『……………ああ、いるぞ』

返事が返ってきた。

その声の主は、けんじゃポケモンの『ヤレユータン』だった。どうやら彼がこの店のバーテンダーらしい。

そのバーテンダーからは長年この世界で生きてきたもの特有の落ち着いた雰囲気を持っていた。

『………おや、久しぶりだな。そっちのフワライドは?』

「ああ、こっちは昨日墜落してきた方ですよ」

どうやら男は、この店の常連客なようだ。

『とりあえず、いつものでいいか?』

「ええ、お願いします」

それから5分程たち、
出てきたのは、パイルの実を絞って作られたパイルジュースだった。

パイルジュースはもちろん、オレンソーダすら飲んだことのない私にとって、未知の世界への入口だった。

人間の作るジュースは大体利便性などに気を取られて、人工物で腐敗を抑えたりしてとても100%とは言えないものが殆どだ。

しかし、私の目の前にあるのは余計なものは一切入っていない天然100%の飲料。

ヤシの葉で包まれた木のカップには、黄金に輝く液体が注がれており、これぞ南国といわんばかりの芳醇を醸し出している。

思わず見とれていると、彼とバーテンダーが飲むように勧めてくる。


それを受けた私は、まずは一口注いでみる。

『……………どうだい? 初めてのパイルジュースは』

とバーテンダーが感想を聞いてくる。

私の口から出てきたのは、ごく単純なものだった。


『…………………美味しい、です』


その後、1分もしない内にジュースを飲み切った私は、男にこう言われた。

「もう1杯、飲んでも良いですよ?」




……………………見透かされてた。












他にも、

草タイプと毒タイプ共同で活動している薬局、

飛行タイプによる郵便局等等、

それぞれの長所を活かした仕事をしている事が分かった。


中でも特に目を引いたのは電気タイプの集団『コイル組』が経営するラジオ番組が存在する事だった。

周りに聞いてみると、今私を連れてあちこちを案内している男がその番組の大ファンで、何回か便りを出していると聞いた。


そんな感じで、それぞれが力を合わせて共に支えあって生きているこの森………街と言った方が良いのか。その光景を見て思ったことがある。





……………………もう少し、ここに滞在してもいいか、と。








その後私は、飛行タイプであることを活かし、宅配チームに参入して活動している。

男の方は新しく来た新住民に住まいを作る建築仕事をしていると知った。

自身で『おいかぜ』を使って加速し、万が一落下しても丸く弾力のある体で商品を守るスタイルが評価され、およそ1年で給料が増え、周りからもよく頼まれるようになったりもした。

給料は木の実で支払われるのだが、特に不自由はしていない。そして、時々はバーテンダーのパイルジュースを、月一で飲みに行くのが楽しみだったりもする。

その時には男も誘って行ったりもした。

そこで彼とは、お互いの近況や過去にあった出来事等を語り合ったりもする。

私は今まで仲間も居ずに1人で旅をしてきたこと。

彼は世界中を旅して、建築の経験を積んでいきたいという夢を語ってくれた。



ある時、

私は、自らの種族について話した事があった。


掴んだ人間を『みちづれ』にする。


普通に考えれば、忌避されてもおかしくない特徴を彼は、これまた予想外の回答を返してくる。

「別にそれは、掴んだまま勘違いしているのがあれだし、特に気にすることでも無いと思うけどね?」


その一言だけで、私の心が体よりも軽くなったような気がした。


その語らいが彼と私の親交が深まったきっかけの一つだったと今でも思っている。









それから何年かたったある日、近所のハハコモリから衣類を貰った私は、彼にお裾分けを行った。

街にいると思ったが、誰もが最近は彼を見ていないという。

私自身も彼を見ていない。

そのため、私は直接自宅に向かうことにした。

彼の家は、私の家から東に数十メートル離れた所に位置している。

木々を低空飛行してフワフワと向かっていく。

今日はいい天気だ。

雲一つない晴れ。

まさしく飛行日和だと言える。




そんな調子で、彼の家の前に到着した。
彼の家はとても質素で、木の枝で骨組みを作り、藁や葉で周りを固めている。

つまるところ、飾り気がない。


私は彼を呼んでみる。

しかし、返答はない。

何度も声をかけて見るも、進展は無かった。

眠っているにしても、今は太陽が真上に上り詰めている。いくら彼が特異だとしても流石に夜行性ではない。

何やら胸騒ぎがする。



ひとまず中に入ってみる。


中には確かに彼がいた。


違うところがあるとすれば、










…………………………………………前見た時と比べて、明らかに痩せこけ、骨が浮き出ている。

明らかに彼とは思えないほどに変わり果ててしまっていた。




「あぁ……………君か………………」

『………その姿は』

「……………薬局グループに…………診察してもらったが、どうやら………………不治の病に……………かかってしまっていたらしいんだ」





彼は話す。

体が倦怠感に襲われ、目眩がした彼は薬局で診察してもらったが、その時は風邪という結果だった。一応薬は貰ったが、症状は日に日に悪化していったらしい。

まるで回復しようとするのと反比例していくかのように………………………


そして、再び診察してもらった時にこう告げられた。



自宅で休養していてください、と。



しかし、彼はその言葉に隠れた真意を見通していた。



自分がかかっているのは風邪ではない。

治ることのない奇病が、自分を蝕んでいるものなのだと。





そして、3日が経った今日、私が訪れて今の状態になった。


彼は託す、自らのやり残した事を。



自分は、世界中を旅して、あらゆる建築を見て学習し、それらの経験をラジオこの森全体とで共有したかった。

しかし、自分はもうこれ以上は無理だ。

君にこの夢を託したい。

いいだろうか……………………?





私から流れ落ちた涙が彼の顔にかかる。

『………………もちろんだ。だから、今は、
………………………………ゆっくり休んでくれ』


そこまで言うと、彼は最初にあった時のように優しく笑いかけてくれた。

その直後、彼は旅立った。














その日の夜、私はお世話になったこの森を離れ、旅に出ることにした。

またプカプカと浮かんで行くのだ。

唯一違うのは、はっきりとした目的があること。

恩人兼親友の、願いを叶えるために飛び立つ。


………………最後まで付き合ってくれるだろう?


『旅は道連れ 世は情け』


今の私達には、まさしくこの言葉が似合うだろう。




………………そうだろう?






私は振り返る。


そして、森に向けて一礼。



私はこの世界でどのような役割があるのだろうか、そう考えていた時もあった。


しかし、それはもうどうでもいい。


そんなことは関係ない。


ただ、後悔のしない生活を過ごせればそれでいい。



私は旅立つ。



上昇気流に乗って、空高く浮かび上がる。



親友の思いを乗せて浮かんでいく。




空は、沢山の星を散りばめている。


それはまるで旅立つ者を歓迎しているかのように見えた。














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フワライド  ききゅうポケモン

『フワライドに のって たびにでた おとこが そのまま ゆくえふめいに なったという じけんが ある。』


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