そこに花は咲いている

ウィステリア
テーマB:「ふじ」

ポケモンストーリーテラーフェスを見ている皆さん、こんにちは。
私は、ポケモンと自然の関連性について研究している『ウィステリア』というものだ。
私は長年、ポケモンと自然にはまだまだ紐解かれていない深い繋がりがあると信じてやってきた。
今回は、小説と言うよりかは一種の思い出話をしたいと思う。
肩の力を抜いて、気軽に聞いてほしい。

そうだなぁ…………………………たしか、私がまだ研究の第一歩を踏み出してから1年も経っていない頃だった……………………………














私は、とある地方の山脈の麓に研究の拠点を置いて、そこに住んでいるポケモンや植物などを観察しながら研究レポートを書いていた。拠点の周りには『藤』を植えたりもした。ちなみに私の名前は、この植物から来ているものだ。春になると、薄紫色の小さい花を沢山付ける。それらが一斉に咲いた時の光景は、陽の光に照らされて、影と光のコントラストが花の美しさを一層際立てているなかなか見ることが出来ないものだ。藤は蔓を木に巻き付けて広がっていくため、日陰が出来る。昔の人々はそれを利用して休息の場を作ったりもしていた。ただ、陽射しを浴びて輝く花は一層美しく見えるものだろう?私としては、今の鑑賞法を勧めたい。

それはさておき、本題に入ろう。この地域の冬に起きたある現象が、私の前に姿を現した。

白く色づけられた大地に、メレンゲでコーティングしたような木々が至るところに連なってるこの場所では、多くのポケモンが生息する。春にはカリキリやチェリムが暖かい陽射しを求めて集まり、夏にはテッカニンが騒がしく鳴きながら木の樹液を啜っている。秋は秋で、パチリスが自らの住処にせっせと木の実を蓄える所も観察できる。所がその時、この地域では殆どポケモンを見ることができない状況に陥っている。それは季節が冬だからなのだが、普通の冬ならばユキワラシなどの氷タイプが元気にそこら中を走り回っている。だが、今回の場合は世界中の氷ポケモンが一斉に放った様な猛吹雪がこの辺りを吹き付けていた。
あたり一面を覆う厚い雲空が、フワフワと柔らかく漂う白い綿の塊を落とすぐらいならまだ風流として捉えられる。しかし、氷ポケモンですら住処から出てこないほどの吹雪となると、話は別だ。ポケモン達の無事を確認したかったが、いつ自分自身に自然の脅威が牙を向けるのかわからない状況で迂闊に出ることが出来なかった。拠点には、私一人には十分なくらいの食べ物もあり、暖かい暖炉や毛布などもある。実に恵まれた環境に私は置かれていた。そのまま、私は何日か家の中で吹雪を何も無かったかのように過ごしていた。




ある時、ふと思った。

何かが、足りない。

ここには食べ物や暖炉、毛布、雨風を凌ぐ屋根と、生活には十分な環境が揃っている。一体何が足りないというのだろうか。


 ここで私は気がついた。いや、気づいていた。

自分は、この状況に甘えていたと。

こんな時こそ、研究者としてポケモン達に寄り添い、観察するべきなのではないか?こんな事で研究者が務まるのか?今こそ自然の中で生きる本当のポケモン達が見れる機会だというのに逃すのは研究者ではない。そう自分に喝を入れた時、吹雪が少しだけ収まってきた。行くならば、今しかない。そう思った私は、コートを着込み、スケッチブックを携えて外に出た。収まってきたとはいえまだ冷たい風が吹き荒れていた。それでも、私は森へと足を踏み入れた。





厳しい環境にこそ、生命は美しく輝く。森の中では、枯れ木の中でポケモン達が体を寄り添い合っていた。私は、この光景にポケモンの自然との共存関係の一部が見えた。この世界に生きる者は独りよがりでは生きられない。それをまざまざと感じた私は、持ってきていたスケッチに、光景や、その時の心情などを書き込んでいった。その間、私の周りの時間の流れが遅く感じた。また、吹雪が強まってきた。だが、その時の私には関係のない事だった。スケッチブックの上に鉛筆を走らせていく………………………



書く……………………………………



書く……………………………………



書く……………………………………


寄り添い会い、厳しい自然を受け入れ、乗り越えようとするその姿は、まるで花のようだ。花が育つには、日光や水、養分が必要である。それらは、自力で何とかなるが、子孫を残すことはできない。甘い果実を実らせて鳥に食べさせることで種子を遠くに運ばせたり、虫に花粉を運ばせ受粉させなければならない。結局は、助け助けられてという関係なのだ。それは、誰であろうとも変わらないものだと今更気付かされた。そんな自分を恥じながらも、その手を止めることは無かった。






















どれほど時間が経っただろうか。スケッチブックが全ページ絵や汚い文字で埋まっているのに気づいた時には、吹雪が嘘のように止んでいた。とはいえ、まだまだ冬が終わる訳でも無かった。辺りを見回してみれば、大地や木々が白い雪でデコレーションされたままで、吐息が白く曇る程の寒さだった。ただ、最初と違ったのは、その飾りを取り除こうとする陽の光の下で、楽しそうに遊んでいるポケモン達の姿だった。それはとてもキラキラと照らされていて、今まで見てきたポケモン達の様子で一番印象に残ったものだった。
私はほっと息を吐くと、その様子を暫く眺めていた。




暫くして、私は拠点に戻った。そして、そこで見たのは、その時期では有り得ないものだった。白色の飾りがまだ少し残っているが、蔓を巻き付けて小さい薄紫色の花を多く付けている_________________藤だった。まだ暦では冬の途中なのだが、そこに春の花が咲いていたのは紛れもない事実だった。その花もまた、これまで見た花の中でより強く印象に残っている。私はその花を少しだけ取った。匂いを嗅ぐと、それからは春の匂いを感じたような気がした。そして、拠点の中に入った。ポツンと寂しく窓際に置いてあった花瓶に花を入れると、私は近くにあったソファで寝てしまった……………………………
















どうだったかな?
藤の花が冬に咲くなどの不思議な現象は、他にも色んな実例がある。
秋に桜が咲いたり、真冬にモンシロチョウが飛んだりもしたそうだ。
まぁ、この一件で私は気持ちを入れ替えて研究に没頭して行くようになった。
またいつか、あの光景を見てみたいものだ。








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山の麓にある小さな小屋の中で、窓に向かって黄ばんだスケッチと鉛筆を握って座っている______________________________________________________________白骨死体。




それは、窓の外にある藤を描こうとしていたらしい。その藤は、今もその小さく、美しい花を多くつけている。しかし、窓際に置いてある花瓶の中には、すっかり色あせてしまった花の一部が、ひっそりと水に浮かんでいた。