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マラサダ食べよう(1x才)
テーマA:「ラジオ」「上昇気流」「反比例」
編集済み
 2週間後と迫ったポケストフェス締切りに向け血走った目をブルーライトでさらにいたぶる物書きの皆さん、または一読者として「さぁどこを批判してやろうか、まぁまずはこの長すぎる前口上をどうにかしろとだな」と意気込んでいる皆さん、アローラ! メレメレ島はハウオリシティ在住、この小説の作者です!
 はい! 質問は順番にどうぞ! 「アローラくんだりに住んでる1x才がどうやってストフェスを知ったんだ?」。「てめぇみたいな娘っこにダムやホワイティが理解できるのか?」。答え、言います。ひとつめ。ラジオで聞いた。ふたつめ。知らんがな。ん? まだありますか? 「聞いたのは分かった。で、そこから執筆に至った理由は何だ?」。答え、言います。隣に居座るヤツのせいです。デスクトップの前に座る私がキーボード叩く手を休めないかと、ヤツが監視しているからです。ああ~~~威圧感で指が止まらない~~~ツバサを授けるドリンクより効果的~~~この視線を今まさに血反吐吐きながら執筆してる諸兄に分けてあげたい~~~~~

 ――なんて書いてたらいよいよヤツの目つきが険しくなってきたので、そろそろ本題に入ります。
 この5000字に及ぶ(予定)短編のテーマは、ずばり『前進』。前に進む。ポケットモンスターはもちろん、古今東西津々浦々の冒険物語を貫く王道中の王道テーマだよ! やったね! ちなみに私はこのテーマがキライです。キライ! です。うーん、アローラへ観光しに来たらしい某白衣の科学者をまねてみましたが、あまりかわいくないですね。
 私、思うんです。果たして人類はこれ以上前進する必要があるのか? って(脱線オブ脱線と見せかけて物語はじわじわ進んでるからもう少しだけ付き合ってね)。ポケット「モンスター」――例えば今私の反対隣にいるかわいいかわいいルガルガン――は、確かにシンカしないとやってけません。進化という生命の神秘的な前進を成すことで自らを強め、少しでも他種の上に立ち、「オオカミポケモン・ルガルガン」としての地位を確立しないと、後世に子孫を残せません。でもニンゲンってどうですか? もう十分、ポケモンとは違うベクトルをぶっちぎったじゃないですか。あろうことか言語も生態も――下手したら鼻の穴の数だって――異なるモンスターと「共存」することで、アセロラちゃんもお口あんぐりな独自路線を築き上げたわけじゃないですか。これ以上どうするってんです? どっち向けて前進するんです? ニンゲンどうしでシンカの促進? 馴れ合い? じゃれ合い? けなし合い? それとも無意味な競い合い? あーもう。うんざりなんですよ、そーいうの。
 前進。前向き。プラス思考。どれもキライ。ダイキライ。でもオトナってそういうの好きなんですよね。というか、それが正しいと思ってる。思い込んでる。子どもの頃はそうでもなかった。はずなのに。



 正しいことが大好きなオトナの、正しさが根深く残る島です。
 だから私、後ろ向いてました。
 そんな私が、ふとしたことをきっかけに
 『前進』せざるをえなくなるはなし。




▷◐◁ ▷◈◁ ▷◉◁ ▷◑◁ ▷◐◁ ▷◈◁ ▷◉◁ ▷◑◁




 話はあの日へさかのぼる。
 太陽は白く、花は赤く、生い茂る木々は真緑で。
 ハリボテめいた極彩色が覆う常夏の島。ただひとつ違ったのは空。
 胸やけしそうな青はどこへやら、私を囲む「空」という名の空間は、どこまでも黄色かった。

 後ろを向いていた。
 言い換えると、背を向けていた。
 それでも突き刺さる視線。背骨を砕きそうな威圧感。
 見えない。けど見える。ヤツは見ている。私だけを、見ている。

 話はあの日の数時間前へさかのぼる。
 「イワンコ? そういやこの道を突っ切っていったなぁ」
 「ハウオリは出ていったかもしれないね。あの先は確か……リリィタウン?」
 「あれ、あなたのイワンコなの? 随分殺気だってたわよ。早くボールに戻しなさい」
 他の人の迷惑になるから。と、続けたのだろう。親切(なふりしてその実利己的)なマダムの言葉を予想するしかないくらい、私はすぐ走り出した。そういえば礼も言わなかった。

 後ろを向いていた。
 言い換えると、背を向けていた。
 右目の隅に映る土くれ。にも似た茶色いかたまり。殺気などとうの昔に消えてしまった。〈スパーク〉をくらった私のイワンコは、もう動けない。

 話はあの日の数時間前の数時間前へさかのぼる。
 珍しく早く目覚めれば、クッションの上が空っぽで。いなくなったのがイワンコだと、気づくに時間はかからなかった。
 探すしかないじゃない。連れて帰るしかないじゃない。これでも一応飼い主(トレーナー)。あれでも一応反抗期。
 久しぶりすぎる真昼の外出。目が痛い。喉が痛い。肌が痛い。目深に被った帽子をあざ笑うかのように、陽はさんさんと輝いて。

 後ろを向いていた。
 言い換えると、背を向けていた。
 左目の隅に映る綿ぼこり。にも似た黄色いかたまり。やまぶきの香りなどとうの昔に消えてしまった。イワンコを助けようと、〈エレキボール〉をくらった私のアブリーはもう動けない。


 震えている。足元のヒドイデが。いつも一緒のポケモン達の、ぼろぼろになった姿を初めて見たからかもしれない。細かなとげをぷるぷるいわせて。小さな牙をかちかち鳴らして。震えている。戦いもせず。うずくまって。背を向けて。
 私みたいに。



 震えていた。戦いもせず。うずくまって。部屋で、ひとりで。
 太陽に背を向けた生活。午後5時に起き、午前5時に眠る生活。時折プラスチックの味の食品を買い込み、北向きの窓のカーテンも閉め、ただ落ちていく心臓の、鼓動だけを眺める生活。よく思った。ヌケニンの方が全うに生きてるだろうな。
 冗談みたいに注ぐ太陽も、馬鹿みたいに垢抜けた街も、アローラ! アローラ! アローラ! と道行く声も、どれもが、遠くて。ヒドイデは部屋の隅でますます縮こまり、イワンコはクッションをますます引きちぎり、アブリーを乗せたやまぶきの香りの芳香剤はますます小さくなっていく。時が過ぎていく。





 話はあの日々にさかのぼる。





 おにーちゃんがいた。
 大きな手。大きな背中。真っ白な、もじゃもじゃの髪の毛。
 街から少し離れたおうち。その庭の、小さなブランコに乗りたかったのだ。物欲しそうにじっと見つめる不審者めいた幼い私を、偶然窓から見つけたのだろう。来いよ。言葉だけがぶっきらぼうで、大きな手は温かかった。
 ブランコに乗せてくれたおにーちゃん。遊んでくれたおにーちゃん。花園で一緒にアブリーを捕まえてくれたおにーちゃん。弱点はカバーしとけ。こいつの相性に合うのはな……荒っぽい口調で、でも丁寧に、ポケモンバトルを教えてくれたおにーちゃん。
 とっても大きい、おにーちゃん。とっても強い、おにーちゃん。背中を見ているだけでよかった。着いていくだけでよかった。ずっとこうしていたいな。初めてもらったというトロフィーを抱きしめ、顔をくしゃくしゃにし笑う姿。それを見て、ふと、

 とっても大きいおにーちゃん。とっても強いおにーちゃん。
 背中を追う私も少しずつ、少しずつ大きくなって。それでもおにーちゃんには敵わなくて。
 私だけじゃない。おにーちゃんはひとりで、ひとりだけで、どんどん強くなった。もう誰も追いつけないほど強くなった。キャプテンになる。しまめぐりの直前ぽつりと言い残した夢に、比例するかのように。
 反比例するかのように、夢は、遠く、



 いつか大きな手を滑り落ちて。



 久しぶりに会ったおにーちゃんは相変わらず大きい。
 玄関を出ようとする彼。入ろうとする私。見下ろす彼。見上げる私。
 入ろうとするドアの向こう、聞こえる、男のオトナの怒鳴り声。入っちゃいけない。直感。理解ではない、直感。
 見下ろす彼。見上げる私。すすり泣きする女のオトナの声をbgmに、見つめあう時は永遠のような1秒。2秒。そして3秒。ドアを蹴破ったおにーちゃんの、1秒。ナイフにも似た瞳。2秒。それは一瞬柔らかくなり。3秒。また元に戻り。

 永遠が終わった。
 旅が終わった。
 夢が終わった。

 気まぐれな神さまが与えてくれた3秒で、私たちはもちろん分かり合えない。
 いつも以上の大股で歩き出す彼を呼び止める方法は誰にも教わってないし。「おにーちゃ、」。搾り出した声は自分でもびっくりするくらい掠れてたし。大きな背中は振り返らないし。
 ただ手のひらだけがこちらを向く。投げる。否、投げ捨てる。かんっ。ぽろぽろぽろ。あっけない断末魔をあげバラバラになるしまめぐりのあかし。それは3日前私がもらったのと、同じ物。
 どっちもオトナがくれた物。


 そう。そうだ。おにーちゃんもそうだった。
 その夢は正しいと、オトナから教えられて。
 だから叶えようとして。でも叶えられなくて。
 その途端オトナから後ろ指を指されたんだ。
 だからおにーちゃんは、
 おにーちゃんは、





 正しいことが大好きなオトナの、正しさが根深く残る島です。
 だから私、後ろ向いてました。
 正しい夢を心に抱いた、正しい人だけが前に進める島です。
 だから私、進みませんでした。
 進みもせず。戦いもせず。うずくまって。部屋で。ひとりで。
 何もしないことを選びました。


 選んだはず、だったんですけど。






 「かぷーこっこ!」
 よりによってそんな私の前にどうして現れる? 今日も今日とて島めぐりに勤しむ子どもの前でなく、島に住む大多数の正しいオトナの前でもなく、正しくいようとした彼でもなく、正しくない、否それ以前に何もしてない、進もうとしない、こんな、この、私の、前に?
 反抗期のイワンコが無謀にも勝負を挑んだから? それとも土足で聖地を踏みしめたから? それとも胸やけしそうなくらい空が晴れてるから? それともなにか、私には分からない重大な禁忌を私が平気で犯したから? それとも、それとも、それとも、それとも、ああ、ああ、ああ、もう、
 「かぷぅーこっこっこ!!!」
 鋭声が耳に突き刺さる。視線もついでに突き刺さる。背骨を砕きそうな威圧感。黄色い空が共鳴し、生まれる小さな雷がそこかしこを焼き焦がし、イワンコは瀕死、アブリーも巻き添え、ヒドイデはすっかりビビッてて、なんなら私だって、震えている、それはそれは惨めに震えている、戦いもせず、うずくまって、背を向けて、ここで、ひとりで、
 見えない、けど見える、ヤツは見ている、私だけを、見ている、負けそう、ちがう、まける、このままじゃ、いやこのままじゃなくても、わたし、やられ
 声が聞こえた。


 戦え


 気がした。


 そのままでいいから 戦え




 圧。
 圧。
 圧。
 ヤツが迫る――それも理解不能な速さで迫る――のを背骨が感じる。
 震えていた。うずくまっていた。背を向けていた。何もかも、変わらず、そのまま。
 「……ヒドイデ」
 ただわずかに変わった場所。鼻腔が、口が、喉が開いて、

 私の声帯は、後ろ向きのまま、震える。

 「〈まもる〉」

 



 「こっこあーっ!!」
 振り向いた。
 明らかに様子の違う鳴き声に。
 近づいたはずのヤツはいつの間にか飛び退いている。だけじゃなかった。口許をじわじわ染める、紫。
 あんた……なんかした? 足元のヒドイデに問いかけるも、恐怖で気絶。何なのこいつ。
 口からとさかへ。全身へ。毒々しくも美しい紫をまとい、その姿はまるで色違いのポケモンだ。そういえば今、初めてまともに顔を合わせている。ぜぇぜぇあえいで、苦しそうにして。そのくせ私を見て大きく、大きくうなずいて。

 あぁ。
 いいんだ。

 前など見ていなかった。
 見もしなかった。
 けど。

  「こっけこあーっ!!!」

 いいんだ。
 これで。

 こんなので。



 上昇気流と紫電を従え、理解不能な速さでヤツは消えた。
 かろん。輝く小さな土くれを、胸やけしそうな青空のふもとに残して。




▷◐◁ ▷◈◁ ▷◉◁ ▷◑◁ ▷◐◁ ▷◈◁ ▷◉◁ ▷◑◁






 そんなこんなで。我らがかわいい主人公ちゃんは、相棒のアブリー、ヒドイデ、イワンコと共にしまめぐりせざるをえなくなったのでした。
 はい! 質問は手を挙げて! 『しまめぐりの感想を一言で』。『てか、石もらったくらいで舞い上がってんじゃねぇぞクソが』。『で、ヤツとはその後どうなったんだ?』。うーん、ふたつめはディスってるようにも聞こえますが……答え、言います。
 ひとつめ。やっぱクソだわ。あ、訂正。ところによりそうでもなかったです。クチナシさんやアセロラちゃんとは話もあったし、星ばっか見てるマーなんとかさんやフェアリー風来坊もキライじゃないし。相棒のポケモン達もみんな子孫を残せそう。そういえばあのときヒドイデの使ったわざが〈トーチカ〉もどきだったのも、シンカしてから分かりました。アブリボンは相変わらず芳香剤の上で寝てるよ。おにーちゃんにも会えたよ。
 ふたつめ。うーん、まぁ、それを言っちゃあおしまいなんですけど、行かなきゃヤバそうだったし。行かなかったらヤツに何されるか分からなかったし。どこかの神々みたく住居破壊されてもたまらんし。ね?
 で、みっつめ。そんな何するか分からないヤツは今、ここにいます。隣にいます。隣に座って、ものすごい威圧感で私を見ています。ああ~~~威圧感で指が止まらない~~~この視線を以下略~~~
 詳細を述べるとですね。しまめぐりを終えメレメレに戻った頃、会ったんですよね。ヤツに。で、勝手にバッグ引っ張ってですね、モンスターボール取り出してですね、くちばしもどきでつついてですね、入ったんですよ。自分から。
 ポケストフェスの告知を耳にした時も、つんつん。つんつん。不覚にもわたくし、理解してしまいました。こやつ、「書け」って言ってるなぁと。出会いを、不信を、思い出を、逐一文字に起こして、書けと。ほんと、神さまって何考えてるか分かんないです。けど。


 ヤツのおかげで。前へ進めた。
 ヤツのおかげで。後ろを向いたままで。



 さて、そろそろ筆を置こう。「タイトル、あんたが決めていいよ」。言わずともくちばしをかまえるお隣の神さまに、キーボードを託します。壊すなよ。とだけ付け足して。
 では、私はこれで。






 “うしろむきでもまえにすすめる”